第55回日本医学放射線学会秋季臨床大会の感想

お久しぶりです。江草です。

2019年10月18日~20日に開催されていた第55回日本医学放射線学会秋季臨床大会に参加しました。

せっかくなので、メモ代わりに、感想を記しておきたいと思います。

 

www.congre.co.jp

↑いずれリンク消えそうですね。

 

●過去最高の参加人数を受けきった運営の工夫と努力

公式アカウントによると、今回の学会は過去最高の参加人数だったそうです。

色々と理由はあるのでしょうが、今回の学会前に、来春の総会では専門医単位が有料化及び予約制となるとアナウンスされたことが大きかったと思われます。

今年の春の総会は、単位認定講演に参加者が集中し、立ち見はもちろん、部屋から人々があふれるなど大変な惨状となっていましたから、こんな駆け込み需要まで見込まれて、いったい今回の秋季大会当日はどうなってしまうのかと、正直、江草もかなり不安視しておりました。

しかし、蓋を開けてみれば、春の総会のように大きな混乱はなかったようです。江草自身の観察範囲でも、多少は立ち見の人は出てるものの、概ね皆さんスムーズに受講できていたように思います。

学会参加事前登録、単位登録の動線の整理、会場の増設、豊富な録画講義、混雑状況をリアルタイムに知らせる公式アプリなどなど、今回の大会運営チームの皆さまの工夫や努力が実った成果と言えるでしょう。運営の方々には感謝とねぎらいの言葉をおかけしたいです。ありがとうございました。

ただ、学会の参加の意義そのものを塗り替えてしまった、いや、貶めてしまった、新専門医制度には疑問を抱かざるを得ません。新専門医制度の罪については、別の機会にまたまとめたいなと思います。

 

 

 

さて、ここからは、江草的に気になった一部のセッションについて、感想や意見を述べていきます。

 

●教育講演9:医療安全・放射線防護1

座長:大野 和子(京都医療科学大)

1)患者安全の全体像
長尾 能雅(名古屋大)

2)福島県民健康調査甲状腺検査結果の概要
祖父江 友孝(大阪大)

 1)は「プロフェッショナル」にも出演された、長尾先生の医療安全の講演。

医療の便益にばかり皆関心があって、医療安全が軽視されていることに警鐘を鳴らされており、「まず、安全があってこそ、医療はそれから」と強調されてました。

あと、「理解と納得がないとルールが形骸化する」。ほんとそれです。江草も院内の医療安全の委員になっていたことがあるので、医療安全を徹底する大事さとともに、その難しさも痛感しました。医療安全のために、色々マニュアルやルールを作っても、なかなか浸透しないんですよね。もちろん、新しいルールの意義についての説明もするんですけどね。みんなそこはかとなく面倒くさそうというか。

これ言うと身も蓋もないので、医療安全の議論の時には「それはできない」という前提になっているようなんですが、つまるところ、現場のマンパワーが不足しているのが諸悪の根源なのではと江草は思います。忙しいとミスが起きやすくなるのは当然で、人を増やすしかないんですよね。過労だってミスにつながるので、勤務時間の適正化は医療安全に必須だと思うのですが、まだまだ医師は年960時間以上の残業は許されてますから、医療安全よりも医療の便益が優先されてるのが現状です。

また、人を増やしても、みんながみんな「常に何かをしておかないといけない」と思っていたら、あまり意味のないことでも何か仕事を無理やり生んで、結局忙しくなってしまうので、「仕事中に余裕があるのも仕事」と、労働意識自体も改革しないと医療安全は達成できないんだろうと思います。

 

●教育講演15:医療の質(診断)

座長:青木 茂樹(順天堂大

1)デジタル画像診断の基礎
江本 豊(京都医療科学大)

2)画像診断報告書 -Clear reportingへの手掛かり
上田 和彦(がん研有明病院)

 

1)はデジタル画像はトビトビなので、特性を理解してないと、見えるものも見えなくなっているかもしれないという、怖い話。

なので、もちろん、できる限りモニタの画質を保つ努力はした方が良いとは思うんですけれど、読影用の高精細モニタってものすごくお値段が高いじゃないですか。本当にあの高精細モニタでないと臨床に影響が出るほどの読影の質の低下が生じるというエビデンスがあるのかはずっと気になっています。一度、この機会に調べるべきですね。

 

2)は画像診断報告書の書き方についてでした。「明らかな」とか「有意な」とか「臨床症状があれば」とか、定番の読影レポート特有の言い回しが槍玉に挙がっていました。確かにおっしゃる通りなんですが、そういう少し曖昧な言い回しを使いたくなる気持ちもやっぱりあるんですよね。

つまり、「明らかな〇〇なし」ではなく、「〇〇なし」だと、画像だけで確定診断できてしまったかのような印象を与える可能性も否定はできない懸念があるんですよ。「放射線画像は全能じゃないよ、偽陰性だってもちろんあるよ」というニュアンスをこめたいがために、「明らかな」がつい出てきちゃうんです。

とはいえ、そんな微妙なニュアンスが受け手の先生方に上手く伝わっているかというとかなり疑問なので、やはりイマイチな言い回しであることは間違いないのでしょう。

しかし、上田先生のプレゼン。全編英語のスライドかつ、解説も英単語が多分に混ざる、「これ」「あれ」などの指示語が多い、「ちょっと読んでみてください」とスライド文章を読ませる、など、申し訳ないのですが、正直分かりやすいものではありませんでした。せっかく内容はしっかりされてても、テーマが"Clear reporting"であるだけに、そのプレゼン本体が分かりにくいものですと、その説得力を落としてしまうと思うので、少し残念でした。

 

●JCRアワー「放射線科医における働き方改革

座長:石藏 礼一(神戸市立医療センター中央市民病院)
井田 正博(水戸医療センター

1)放射線科医と労働関係の法律
田邉 昇(JCR顧問弁護士)

2)医師の働き方改革の方向性について -時間外労働の上限規制における議論を中心に
熊野 正士(参議院議員公明党))

3)RPAによる医師働き方改革と医療安全推進について
中田 典生(慈恵医大

4)自治体病院における取り組み:放射線科医の在宅勤務の導入と実証
久島 健之(兵庫県立淡路医療センター)

 法律、行政、ITなどの側面から、放射線科医の働き方を考えるセッションでした。

 

ひとつ面白いテーマとなっていたのは、二番手の熊野先生が語った、放射線科医を増やすにあたっての障壁についてです。

熊野先生が「厚労省的には、放射線科医は労働時間も短いし、人数も増加傾向という認識で、放射線科医の人数を増やすことは考えてなさそうだ」と現状を嘆いたのに対して、井田先生が「放射線科医は勤務時間内に暇時間がなく密度が濃いんだ」「ニーズが急増しているのに合わせて人数が増えていっているだけで、増加傾向だから十分と言われては困る」と憤慨されていていました。これは確かにその通りで、一人当たりの労働時間が短いことや、人数が増加傾向なことのみで、放射線科医の人数を増やす必要がないとする根拠には十分ではないでしょう。

とはいえ、産科医がいなくなって出産できなくなる地域が出るなど、放射線科よりも他科の方がよっぽど医師不足で大きな医療問題を生じているように世間的には認識されている可能性は高いです。他科に優先して放射線科医を増やすべきとする説得力の高い根拠を放射線科サイドが提示するのは至難の業でしょうね。

放射線科医を増やすべきかどうか問題」はなかなか語りがいのあるテーマですので、これもまた別の機会に腰を据えて書ければと思います。

 

 

3番の中田先生(本当は四番手に話されました)はRPAのお話でした。AIと勘違いされやすい、流行りのRPAについて丁寧に解説されていました。江草も特に詳しくはないので、勉強になりました。

RPAとは、Robotic Process Automationの略で、すごくざっくり言うと、コンピューター上の単純作業をソフトを使って自動化することですね。中田先生はAIは頭脳で、RPAは手足と表現されてました。

外来患者数の月報を作ったり、未作成の退院サマリーの催促をしたりと、例に挙げられてましたが、いつもの決まりきったコンピューター上の作業の動作をソフトに覚えてもらって、自動で処理することで、医療でも労働生産性の向上を図ることができるという夢のある話です。確かに、面倒な単純作業が自動化されて、勝手に終わっていたらとてもうれしいですよね。

ただ、中田先生はRPAのメリットの話ばかりでしたので、世間で指摘されているRPAのデメリットの話がなかったのが気になりました。

例えばこの記事。

note.mu

RPAの弱点として、機械的に操作を覚えているので、自動で操作したいソフトのユーザーインターフェイス(ボタンの配置とか)が変わると、途端に動かなくなることがあるようです。「ここのボタンを押す」と覚えてた場所にボタンがなくなったら確かに動かなさそうです。

となると、ソフトのバージョンアップとかでインターフェイスが変わると、その度にRPAも覚え直し、作り直しになるわけです。一つの作業でだけRPAしてたらすぐ直せそうですが、大量の作業をRPAで自動化していたらインターフェイスが変わる度に大事になってしまいます。

そうすると、今度は、RPAをできるだけ直したくないために、基本ソフトのバージョンアップを避けるようになって・・・、そうしてるうちに、技術の進歩や、医療の状況が変わって新しい機能を付けた方が良さそうなんだけど、ソフトのバージョンアップをしたくないから、古いままのソフトでなんとか粘ろうとする・・・、と、電子カルテ時代になっても紙カルテが全然廃止できないみたいな、日本でよくある光景的な、なんだか嫌な予感がしますね。

つまり、RPAが現状の作業を最適化する機能という側面が強いために、進歩や変化を抑えるデメリットがあると、そういうことのようです。

そう考えると、RPA、確かに夢はあるのですけれど、やっぱりまず大事なのは仕事内容自体の無駄を省くこと、変化に備えた体制を作ることかなと、江草は思います。

 

 

 

その他、細かくコメントしたいセッションもありましたが、今回はこのあたりにしておきましょう。

単位関連で大変ですが、行ってみると、学会は勉強になるし、考えさせられますし、いい刺激になったと思います。