新型コロナウイルス感染症検査後確率計算ツール「汝はコロナなりや?」を作ってみました。

 

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 江草です。

ふと思い立って、新型コロナウイルス感染症検査後確率計算ツール「汝はコロナなりや?」を作ってみました。

 

汝はコロナなりや?

 

■製作のきっかけ

先日、楽天よりPCRキットが発売されるなど、医療機関に依らない新型コロナ検査が登場する中、その検査結果をどう解釈するか議論となっています。

検査結果の解釈には、検査前確率の設定や、検査精度の情報が重要で、岩田先生のこのツイートのような計算が必要になります。

しかし検査後確率の計算は少々手間がかかります。

探し方が悪いのかもしれませんが、検査後確率を計算するサイトやツールが意外と見当たらなかったので、自分で作ってみました。せっかくなので、誰でも使えると便利かなと思い、こっそり公開してみます。

CALCONICという、ブラウザ上で動く計算機を作ることができるサイトを利用しています。

www.calconic.com

 

■ツールの解説

検査前確率、検査の感度、検査の特異度、検査結果の4つのパラメーターを好きに動かして、その設定に応じた検査後確率を算出することができます。

「検査が陽性だったとして本当に感染しているのか」

「陰性だったとして本当に感染していないのか」

つまり、

「検査結果をどれぐらい信じていいのか」

を考える時に役立ちます。

 

・検査前確率

検査前の時点で新型コロナウイルスに感染してると思われる確率を設定します。

特別リスクが高い状況でない方では、全人口における感染者数の割合(有病率)を用いることが多いです。日本全国あるいは東京都でも2020年4月29日現在で確定値の有病率は0.1%を下回っていますので、とりあえずデフォルト値は0.1%にしています。上の岩田先生のツイートでは、「疑ってない無症状の人」の検査前確率(事前確率)は、潜在感染者がいると考えてもせいぜい有病率は1%程度だろうと判断されていると考えられます。

濃厚接触者や発熱などの症状が続いている方など、感染している可能性が高そうと考えられる方は検査前確率は高まります。例えば、検査前の症状や経過などを踏まえ、ある人が感染している確率は五分五分だなと合理的に推定できたら、その人の検査前確率は50%になります。

 

・感度

感度とは検査の性能の指標の一つです。感染してる人を陽性と判定できる能力(確率)です。検査前確率とは独立して決まります。例えば、新型コロナウイルスPCR検査の感度は30~70%程度と言われています。

 

・特異度

特異度とは検査の性能の指標の一つです。感染していない人を陰性と判定できる能力(確率)です。検査前確率とは独立して決まります。例えば、新型コロナウイルスPCR検査の特異度は95~99%程度と言われています。

 

・検査結果

陽性とは検査にひっかかる(感染していそうと判定された)こと、陰性とは検査ではひっかからなかった(感染していなさそうと判定された)ことを意味しています。たまに、陽性と陰性の意味を逆にとらえてる方がいますので、念のため(陰性の方がネガティブな印象がするから?)。

 

・検査後確率

検査結果を踏まえて算出された、本当に感染している確率です。

検査の精度には限界がありますので、検査結果が陽性でも感染しているとは限らないですし、検査結果が陰性でも感染していないとは限りません。逆に言うと、現実にはありえませんが、検査精度が完璧だと検査結果が確定診断になります(感度特異度をともに100%にしてみてください)。

検査前確率(有病率)が変わると検査後確率も変化するので色々な設定で是非試してみてください。

なお、本当の感染確率と言ってますが、前提が全て正しければ正確というの意味での「本当」です。前提となる検査前確率や検査精度の数値の設定がそもそも誤っていたり、取り違えや勘違いで検査結果の陽性陰性がすり替わっていれば、もちろん「本当の確率」ではなくなります。

 

・注意

気づいてる方は気づいていると思いますが、実際にはこの計算ツールは新型コロナウイルス感染症以外の病気や検査にも利用できます。

製作のきっかけでもありますし、昨今の世相から多くの方にイメージしやすいかなと思い、あえて新型コロナウイルスをテーマにしています。

スライドバーの操作はPCだと自由に動かせるのですが、スマホですと細かい操作が難しく完全に思い通りの数値にできないようです。スライドバーの解像度の限界でしょうか。今後の課題です。(※5/6 スライドバーの刻みの細かさを変更できるよう改良しました)

また、環境によっては、文字が重なってしまうケースがありそうです。素人製作ですので、ご容赦ください。

計算式は下記の通りです。検算もいくらかしたのですが、もし間違っていたらすみません。

 

・計算式

検査前確率をa(%),感度をb(%),特異度をc(%)とする。

検査結果陽性の時

検査後確率(%)=ab/{ab+(100-a)(100-c)}

検査結果陰性の時

検査後確率(%)=a(100-b)/{a(100-b)+c(100-a)}

 

■あとがき的な個人的考察

自分で作っておきながら、 スライドバーで数値をグリグリ動かすのが楽しくて、しばらくいじっていました。そうして、改めて感じるのは、検査前確率が低い時の検査の陽性のあてにならなさです。

PCR検査は特異度が高い特徴があるということですが、一方で感度はあまり高くないということもあり、95~99%という高い特異度の設定でも検査前確率が低いと検査後確率は伸び悩みます(ご興味があれば実際やってみてください)。岩田先生が「無症状の方にPCRをするな」という根拠はこれですね。

また一方で、検査前確率が高いと検査結果が陰性でも案外感染してる可能性が残ることも分かります。濃厚接触者で症状もある方の検査結果が陰性であったとして、果たして感染防御を緩めてよいものでしょうか。

というか、微妙な症状があったとして、その検査前確率の正確な推定なんてできるのでしょうか。検査前確率が曖昧だったら、検査結果をどうしていいかなんて、とても分からないんじゃないでしょうか。

 

ええ、検査結果の解釈というのは本当に難しいんです。

 

ただ、検査結果の解釈に関して、二点確かなことがあります。

それは、

①現時点での日本国内の有病率(確定値で0.1%未満)では無症状で接触歴も無い方の検査前確率は低いと推定され、結局PCR検査陽性後の感染可能性もそこそこ低いと推定できること

②検査の精度が不明では検査結果の解釈はとても難しいということ

です。

 

①の点からは、岩田先生の言うような、無症候者のスクリーニングPCR検査はあまり意味がないという意見には一理あるでしょう。状況によっては意味が出てくる可能性はありますが、少なくとも現時点では手間やコストとの折り合いが付くかは疑問があると江草も思います。(ただし、感染している確率が低いからといって無症候者が自由に動いていいかどうかは防疫上の別の問題になります。今感染していなくても、これから感染したり他人にうつすリスクが高まるからです)

 

②の点からは、検査としての精度が不明な楽天PCRキットは、やはり問題があると言えるでしょう。販売する以上は、検査精度の公表および調査や厳密な精度管理が必須と言えます。

 

今回の計算ツールを通して、これらの点が皆さんにも実感できるんじゃないかなと、作った江草自身としては期待しています。

 

 

・・・とはいえ。

 

最後に、あとがきのあとがきです。

以上で頻繁に述べている確率の「高い」「低い」というのは、あくまで江草個人の印象になります。

こうした議論において忘れてはいけない大事なことは、ある確率を「高い」と思うか「低い」と思うかは、人それぞれということです。

 

よく言われる例なんですが。

「降水確率が何%だったら、あなたは傘を持ってでかけますか?」

100%や90%だったら、傘を持って出る人は多いでしょうし、0%や10%だったら、傘を持って出る人は少ないでしょう。でも、それだって絶対じゃありません。雨でも傘を差さない人もいれば、晴れてても念のため持って出る人もいます。ましてや、40~60%ぐらいの中途半端な確率であれば人々の反応は様々でしょう。

つまり、「あなたの検査後確率は41.4%です」と言われてどう考えるかも、人それぞれということなんです。検査前確率が1%だったのが検査後確率41.4%になるのなら意味がある、行動選択のための貴重な情報となる、と考える人がいるのは不思議なことではありません。

なので、「検査後確率41.4%だからダメ」というのは、あくまで個人の価値観――あるいは医療の価値観――に依存した結論なんですよね。そうでない価値観の人には通じない可能性があります。

社会には多くの人がおり、その価値観も多様です。

医療の価値観で押し通すばかりではなく、医療者以外の方々の価値観とどう折り合いをつけるのか、今回のコロナ禍で、医療界に突き付けられた、とてもとても難しい課題だと江草は感じます。

 

■参考記事など

health.incubation.rakuten.co.jp

 

note.stopcovid19.jp

 

news.yahoo.co.jp

 

jeaweb.jp

saito-heart.com

 

www.gohongi-clinic.com

 

Correlation of Chest CT and RT-PCR Testing in Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) in China: A Report of 1014 Cases

 

Sensitivity of Chest CT for COVID-19: Comparison to RT-PCR