医師の働き方改革における聖域について

先日JCRニュース(日本放射線科専門医会・医会誌)に、「放射線働き方改革アンケート結果2018と提言」という別冊がついていました。

厚労省の「医師の働き方改革検討委員会」をはじめとした、昨今の医療界の働き方改革を受けて、放射線科医の働き方について、学会が調査し今後の方針を提言したもののようです。

 

拝読したところ、色々と考えさせられる内容で、頭の中に様々な思いが湧いてきました。

すると、ちょうど、アンケートの「おわりに」の項で、専門医会の理事長である井田先生が

放射線科医も働き方改革を機に積極的に医療制度改革に提言すべきである

(p49)

と記されていましたので、市井の一放射線科医として、私、江草も医師の働き方や医療制度について意見を述べてみようと思い、ブログを始めることとしました。

よろしくお願いします。

  

 

さて、本当は細かく見ていきたいのですが、供覧しながらでないと、アンケートや考察の項目を一つ一つ紐解いていくのは難しいので、ひとまずここでは「医師の働き方改革」に対して総論的にひとつ意見を述べたいと思います。

 

 厚労省の「医師の働き方改革検討委員会」、日本医学放射線学会の「放射線科の働き方改革提言」、共通して不思議な点があります。 

 それは、医局制度についての議論がほとんど見られないことです。 

医師の皆さんであればご存知の通り、医局とは、医学部教授を頂点としたヒエラルキー構造を持つ、医師のグループ組織で、大学病院だけでなく地域(時には遠方)の病院の人事権をも握っています。

医局 - Wikipedia

教授からの上意下達で、医局のメンバーたちは、各地の病院に異動したり、大学に戻ったり、医局内での様々な役職を命じられたりします。システムとしては一般企業の転勤や人事異動と似ています。相違点として、医局からの指示には実際には法的効力はない点がありますが、医局制度に基づいた人事異動は日本医療界の慣習として広く普及しており、医局が日本の医師の働き方に大きな影響力を持っていることに異論はないでしょう。

 

一般に、転勤は「働き方改革」において重要な議題の一つです。

“転勤”が廃止される!? 働き方の新潮流 - NHK クローズアップ現代+

「転勤」が時代遅れになった、これだけの理由 | 文春オンライン

同様に転勤は医師にとっても悩みの種です。新婚なのに、子供が生まれたばかりなのに、医局に言われて仕方なく夫婦別々に離れて暮らすことになった、パートナーが仕事を辞めた、といった話は多く耳にします。

 

 

また、大学病院内での人事については、最近は「無給医問題」が取り上げられるようになってきました。

News Up 声を上げ始めた“無給医” | NHKニュース

絶対である医局の指示があれば、医師は自主的にタダ働きさえするのです。

 

こう見ていくと、医師の働き方の問題に、医局制度が少なからず関係していることは明らかです。にもかかわらず、医局制度についての議論や提案が「働き方改革」に挙がってこない、これは大変不自然な話ではないでしょうか。

これでは、医局が「働き方改革」において、決して改革してはならない聖域扱いされていると考えざるをえません。 

 

学会主導の「放射線働き方改革の提言」はもちろん、厚労省の「医師の働き方改革検討委員会」においても、議論の構成メンバーは少なからず大学医局の医師達が占めています。その上で、重大な議題の一つとして挙げられてよいはずの医局制度を聖域扱いし、改革をする気がないとなると、大問題です。「医師の働き方改革」は、現場医師の労働環境の改善を目的としたものでなく、医局の利益誘導のためのプロジェクトであると邪推されても仕方がないでしょう。

 

確かに医局制度は、長らく日本の医療を支えてきたシステムで、その実績は評価されるべきです。しかし、逆に言えば、現在の医師労働問題に対して医局制度の長年の責任もあるはずです。本当に医師の働き方を改革するつもりであるのであれば、医局制度は聖域に逃げることなく、堂々と議論の場に登壇すべきです。

  

せっかく高まった「働き方改革」の機運です。

江草としては、今後、働き方改革を機に積極的に医局制度の在り方についての議論がなされていくことを期待しています。

 

折を見て、このブログでも、医局制度についてもっと議論を掘り下げていくつもりです。

よろしくお願いします。